あらすじやキャラクター設定などこちらを参考にしてくださいw →
中島陽子(ナカジマヨウコ)♀:日本からきた慶国の国王。歳は16歳。
大木鈴(オオキスズ)♀:日本からきた海客。歳は16歳。思い込みが激しい。
祥瓊(ショウケイ)♀:芳の国の元皇女。歳は16歳。楽俊にあってから優しいくなる。
景麒(ケイキ)♂:麒麟。慶の国の宰輔。20代半ばの落ち着いた青年。
楽俊(ラクシュン)♂:鼠の半獣で、気のいい青年。10代後半で頭がいい。
浅野郁也(アサノタクヤ)♂:陽子と一緒に日本から来た高校生。この世界で少し気が狂っている。
清秀(セイシュウ)♂:生意気なガキンチョ。でも気はいい子。小学校中学年ぐらい
夕暉(セッキ)♂:10代後半の少年、頭がメチャメチャ切れる。
虎嘯(コショウ)♂:20代半ばぐらいの、筋肉ムキムキにーちゃん
靖共(セイキョウ)♂:腹黒い男。50代半ばぐらいのおやじ
秋官長(シュウカンチョウ)♀:20代後半のねーちゃん
昇鉱(ショウコウ)♂:悪役。30前半ぐらいの男
革午(カクゴ)♂:市場の顔役(リーダー)。40代ぐらいのおじさん
蘭玉(ランギョク)♀:桂桂の姉、中学生ぐらい。
桂桂(ケイケイ)♂:小学校中学年ぐらいの子供
遠甫(エンホ)♂:人の良いおじいさん
注1:陽子の読み方で(ヨウシ)と入っているものは「ヨウシ」。なにも入ってないものは「ヨウコ」と呼んでください。
注2:読めない漢字はみんなに聞いてくださいw
注3:ナレは人数が少ないときは要らないです(緑の文字のところがナレです)
注4:人数メチャメチャ多いです!!なんで被ってくださいww
被れるのは・・・・男性なら『虎嘯・兵士&男・靖共・遠甫・楽俊』と『夕暉・革午・商人・浅野・景麒』もOKw
女性なら『女&老婆・秋官長・清秀・桂桂』あと『陽子・祥瓊』も被れなくはないですw
祥瓊役のかたが題名をお読みください(o*。_。)oペコッ
第32話 『風の万里 黎明(レイメイ)の空 第九章』
OP(可能であれば入れます)
陽子(N)「慶国和州(ケイコクワシュウ)の拓峰(タクホウ)を訪ねた私は、
そこで車が子供を轢(ヒ)きさる現場に遭遇した。
子供は『鈴が泣くと困る』と呟いて、そのまま息を引き取る。
それが私と鈴の出会いだったのだ。」
鈴「(泣きながら)どうして・・・どうして・・・清秀・・・
(ハッと気がついて)アサノ・・・?どうして側(ソバ)にいてくれなかったの・・・」
革午「(ボロヌノを差し出して)これで」
鈴「ありがとう・・・(革午に清秀をもぎ取られる)あっ!!」
革午「いつまでもこんなところに置いておくものじゃない・・」
鈴「(慌てて追って)何があったんですか?馬車に轢(ヒ)かれたって?」
革午「知らんな」
鈴「だって」
革午「誰も見てやしないよ!
(露骨な態度で)誰かー、この子がどうしたか見た者はいるかぁぁぁぁ?」
残っていた人々も散っていく。
夕暉「(悔しそうに)くそ・・・・」
拓峰・郊外・墓地
鈴「清秀・・ごめんね・・・景王(ケイオウ)、なんて信じて・・・。
慶(ケイ)に着いたらすぐ、医者に連れて行けばよかった・・・・・なのに・・・
(自分は医者に診せるのが怖かったのだ、という言葉を呑み込み)
ごめん・・・ごめんね・・・」
夕暉「お姉さん、門が閉まるよ。街の外にいちゃいけない」
鈴「ほっといて・・・あたしに構わないで!」
夕暉「自分を哀れんで泣いているのじゃ、死んだ子に失礼だよ」
ハッと鈴、目を見開く。そこに清秀が立っているように見える。
清秀「そんとき思ったんだ、人の泣くのには二つあるんだなって・・・」
苦しい息の下で、語る清秀
清秀「自分がかわいそうで泣く涙はさ、子供の涙だよ」
鈴「(涙を拭って)あなた、清秀を?」
夕暉「名前は知らない、でももう有名だからね、拓峰(タクホウ)じゃ」
鈴「嘘よ。誰も、轢(ヒ)かれるのを見てなかったって」
夕暉「・・・それは、しょうがないよ。さ、戻ろう(手を差し出す)」
拓峰・虎嘯(コショウ)の宿
沈んだ様子で食事を取る鈴
夕暉「(力づけるように)少し元気が出たね。
前を向いて歩いてないと、穴の中に落ちてしまうよ」
鈴「(顔を上げて)穴の中?」
夕暉「自分に対する哀れみの中」
鈴「・・・そうね・・・・ありがとう」
夕暉「うん」
鈴「私、鈴、あなたは?」
夕暉「夕暉。あっちにいる兄さんは虎嘯(コショウ)」
虎嘯「指をさすな」
鈴「あとで役所に連れていってくれる?清秀を轢いた馬車、捕まったかどうか」
夕暉「(声をひそめ)そんなこと、言わないほうがいい」
鈴「どうして?きっと見ていた人はいるから・・・・」
夕暉「(悔しそうに)捕まらないよ、あいつは」
鈴「(警戒)あいつ?あなたの、ナニ?」
夕暉「(振り向き)知り合いかって、意味なら違うと言うよ。
ぼくはあんな下郎(ゲロウ)とは知り合いでいたくない」
鈴「誰、なの?」
夕暉「この街の人間はみんな知ってる。
・・・郷長(ゴウチョウ)が旅の男の子を殺したって」
鈴「郷長・・・って」
夕暉「郷長昇鉱(ショウコウ)。それがこの一帯・・・止水郷(シスイゴウ)で一番危険な奴」
鈴「なんで郷長(ゴウチョウ)が?殺した?」
男「昇鉱の車の前に、その子が飛び出して止めちまったんだとさ」
鈴「それだけ?」
夕暉「昇鉱(ショウコウ)にはね、それで十分なんだよ」
鈴「だって・・・清秀は病気だったのよ、目がほとんど見えなくて、足も真っ直ぐに歩けなかった。
・・・ずっとおぶってあげればよかった・・・あんなに軽かったのに・・・・」
夕暉「昇鉱を恨んでは駄目だよ」
鈴「(卓を叩く)何故!?」
夕暉「昇鉱を恨むということはね、昇鉱に殺されるということだから」
虎嘯「今日はこの宿に泊まればいい、そして故郷に帰るんだ」
鈴「連れがいるの、二人で清秀の恨みを晴らすわ」
夕暉「・・・・やっぱり、教えるんじゃなった」
固継・里家・厨房
蘭玉「ど、どうしたの、陽子(ヨウシ)」
陽子「拓峰(タクホウ)で、子供が車に轢(ヒ)かれるところに行き合ったんだ」
蘭玉「まあ」
陽子「車はとまらず、だれも呼び止めようともしない・・・妙だったな」
蘭玉「ああ、昇鉱ね」
陽子「え?」
蘭玉「止水の郷長、車に乗っていたんなら、たぶんそうだと思う」
陽子「有名なのか?」
蘭玉「とっても。人を人とも思わない獣(ケダモノ)よ。
(顔を顰めて)悪い噂ばかり聞こえてくる・・・・
あたし、もし二十歳になって和州の、それも止水に振り分けられたらどうしよう、
っていつも心配しているもの」
陽子「そんなに、ひどいのか」
蘭玉「止水は賦税(フゼイ)が七割なのよ」
陽子「まさか・・・税は収穫の一割が基本のはずだ」
蘭玉「橋を造ったりする作事費(サクジヒ)だの妖魔から守ってもらう名目とか全部で七割よ」
陽子「バカな。工事費や、妖魔との戦いは全部国がまかなうものだ、第一・・・」
蘭玉「(ため息)どうして王は昇鉱みたいな奴を許しておくのかしら・・・」
固継・里家・遠甫の房室
陽子「(怒りながら)私はそんなことを許した覚えはない。
ただでさえ、いまは民が苦しいときだがら
税を一割から八分(ハチブ)にまで減らすよう告示(コクジ)しているはずだ」
遠甫「(椅子を示して)憤(イキドオ)ってもはじまらん、陽子、ここ北韋(ホクイ)でも税は三割だ」
陽子「(驚き)しかし、ここは景麒の直轄地では?」
遠甫「どんなに仁道(ジンドウ)篤(アツ)い主がいても、目が行き届かなければ役には立たんということだ
・・・君主一人では政(マツリゴト)はたちゆかぬ。
七割の税のうち、四割は止水郷(シスイゴウ)がある、和州(ワシュウ)を治める呀峰(ガホウ)の取り分だな。
昇鉱(ショウコウ)は呀峰に気に入られておる」
陽子「それがハッキリしているならば、呀峰は勅命(チョクメイ)に反していることになりますね」
遠甫「呀峰(ガホウ)は徴収(チョウシュウ)した税ではなく、あくまで供託された金だと言っておる。
そして実際和州では土木工事が盛んだから、国が咎(トガ)めることはできんだろう」
陽子「昇鉱を捕らえれば、言い逃れはできないのでは?」
遠甫「呀峰が昇鉱をかばい、捕縛(ホバク)はさせぬだろう。
郷長を裁くのは州侯(シュウコウ)の役目だからな。
違法な税をとっていることは決して明らかにはされない。
(見て)それに、私腹を肥(コ)やす官吏(カンリ)はなにも呀峰や昇鉱だけではない。彼らだけを取り締まっても・・・」
陽子「でも、何にもしないよりはいいはずです」
遠甫「なんの罪で捕らえる?税については今も言ったように」
陽子「昇鉱が子供を車で轢き殺したのを、見ました」
遠甫「なるほど。だがそれで昇鉱が捕らえられるかな」
陽子「え?」
遠甫「車に乗っていたのは昇鉱ではなかった
・・・・ということになるのではないかな?
そうでなければそもそも子供が死んだのは
車に、轢かれたわけではないという証言が山と現れる」
陽子「私が、王が証人なのですよ?」
遠甫「王なればこそ法に従わねばならぬ。
法を歪めて処罰すれば、法が意義を失う。
それは酷吏(コクリ)を放置するよりもっと罪が重い」
里家・陽子の房室
清秀「(死にそうな声で)鈴・・・が泣くから」
陽子「・・・なんて不甲斐ない王なんだ・・・私は・・・
(ふと気がついて)鈴・・・?あちらの名前か・・・・?」
翌朝・拓峰・墓地
夕暉「墓地が、広すぎると思わない?」
鈴「・・・・?」
夕暉「拓峰(タクホウ)だけじゃない、このあたりの村の人がたくさん埋められているんだ」
鈴「村には墓地がないの?」
夕暉「あるさ、でも、村がまるまる一つなくなってしまえば、誰も参れないだろう。
だから、こっちでまとめているんだ」
鈴「村が・・・・なくなるって・・・妖魔か何か?」
夕暉「それもあるけどね・・・妖魔より、ひどい獣(ケダモノ)さ」
鈴「・・・昇鉱・・・」
夕暉「そう・・昇鉱は、村で狩りをするんだ。
七割の税に一分でも満たなかった村は、襲われ、女子供がさらわれる。
大人たちは殺される・・・・」
鈴「それじゃ働き手がいなくなる、結局収入が減ることになるじゃない」
夕暉「不思議なことにね(悲しい笑い)無人になった村に、
時々たくさんの人が運ばれてくるんだ。
土地に振り分けられたわけじゃない。
どこかの難民なんだろうけど・・・喜んでいるのは最初のうちだけでね」
鈴「・・・・・・」
夕暉「わかっただろう、ここでは昇鉱が王なんだ?」
鈴「・・・だから忘れろっていうの・・・・?清秀を!?」
拓峰・郷城内
昇鉱「お前に匠(タクミ)はあるのか?」
浅野「え?」
昇鉱「同じようなものを造れるのか、と訊いている」
浅野「いえ・・大体はわかりますけど・・・火薬は・・・」
昇鉱「そうか。次の狩りに役立つかと思ったがな」
浅野「狩り?」
昇鉱「ああ、村でな」
浅野「・・・へぇ」
昇鉱「獲物は人間だ」
浅野「はあ?こっちじゃ・・・そんなことも許されるんだ?」
昇鉱「許されておらぬ。
なくなった村人は、戴(タイ)からの難民をひそかに移住させて補っているが、それは見かけのこと。
天綱(テンコウ)には民を虐(シイタ)げてはならぬとあるそうな。
天綱は王に与えられた天の法だが、無論その臣下たる私も従わねばならぬ」
浅野「じゃあ・・・」
昇鉱「だが、私は別に天に罰せられる気配もない」
浅野「・・・・・」
昇鉱「私はあらゆる罪を、少なくとも天綱にしてはならぬとされていることはすべてしているつもりだ。
したことがないのは、王殺しぐらいのものだが、それもやがてはできるだろう」
浅野「そんな・・・」
昇鉱「私が、怖いか?」
浅野「・・・なんで、わざわざ、悪みたいなことを」
昇鉱「この世界の理(コトワリ)が正義ならば、私は確かに悪だ。だが私にはその理(コトワリ)こそが悪に見える」
浅野「・・・・・」
昇鉱「王は麒麟(キリン)が選ぶ、麒麟は天意(テンイ)を示す・・・私はそれが当たり前だと思っていた。
だが・・・何も知らぬ海客(カイキャク)の王を選ぶことが天意か?
国を乱す女王ばかりが続くのが民を虐げてはならぬと説く天の意思か?」
浅野「なんか・・・わかんないけど・・・」
昇鉱「・・・・私は、天が私に罰を下すまで、悪でいる・・・そう決めたのだ」
浅野「俺も、わけのわからない決めごとに操られるのは飽きたから。だから好きにしたいってのはわかる」
昇鉱「(冷たく笑う)そうだな・・・」
浅野「・・・一度、街に降りてもいいですか?」
昇鉱「?」
浅野「・・・心配していると思うので・・・連れが・・・子供が死んだし」
昇鉱「お前は、もう私が憎くはないのか?」
浅野「(正気の抜けた笑い)わかんないんですよ・・・
こっちの世界の人間が本当に生きてるのか、死んでいるのか・・・。
だって子供が死ぬのを見るのなんて・・・見たことなくて」
慶と雁の国境
楽俊「話はついているから、この人たちと一緒に慶(ケイ)に入ればいい」
祥瓊「ほんとに・・・すごいのね」
楽俊「あと、これ(と金袋を渡して)」
祥瓊「あ・・・」
楽俊「気をつけてな(相手の言葉を遮るように去る)」
祥瓊「(楽俊に頭を下げながら)・・・ありがとう・・・」
顔をあげると・・・楽俊がたまにのって雲の向こうに消える
祥瓊「ありがとう・・・わたし・・・頭を下げることが、
こんなに嬉しいことだなんて・・・知らなかった(再び頭を下げる)」
巌頭(ガントウ)・街並み
女「こんなに寂れた国だったかしら」
男「やっぱり帰ってくるんじゃなかったかな・・・」
巌頭・宿・食堂
女「女王なの?また?」
男「それを先に聞いてりゃ雁(エン)に残ったのに」
女「女王は駄目だ、無能なうえにすぐ国を荒らす」
商人「でもよ、船の話は聞いたかい?」
女「なんの船?」
商人「戴(タイ)から、難民を乗せて戻ってくるという船さ」
男「そんなのがあるのか?」
女「あんた知ってるかい?」
商人「ええと、どこだったか、そうそう止水だ。
止水の郷長(ゴウチョウ)が戴の難民を哀れんで、そんな船を出しておられる。
難民は止水で土地と戸籍をもらえるらしい」
男「止水・・・和州(ワシュウ)と瑛州(エイシュウ)の境だったか」
女「和州か・・・」
商人「難民を引き受けようってぐらいだから、止水は豊かなんじゃないかい?
前の村に戻るより、止水に行ったほうが仕事も見つかるかも」
女「そんなうまい話があるものかい」
男「どこで聞いた話だい?担(カツ)がれたんだろう」
商人「違うって。聞いたことがある奴、いるだろう?」
まわりが静まり返る
男「ほら・・・・」
祥瓊「聞いたことがあるわ」
商人「ある、そうだろ?やっぱりな」
祥瓊「噂だけど。柳(リュウ)で船乗りをしていたという人から。そういう船があるって」
男「止水か・・・行ってみようかなぁ」
女「どうせ村はもうないしねぇ」
男「でも、オレはやっぱり生まれたところじゃねえとなぁ・・・」
商人「あんたは、どうするんだい?」
祥瓊「堯天(ギョウテン)まで行くつもりだったけど・・・職は必要だし・・・
(自分に言い聞かせる)そうね、その止水ってとこまで、とりあえず行ってみるつもり」
慶・和州への街道・馬車
老婆「そう・・・芳(ホウ)から・・・芳の王様は亡くなったって小説で言ってたけど」
祥瓊「ええ」
老婆「芳も・・・こうなるんだね・・・」
老婆の見つめる先には、慶の荒廃した風景が広がる。
堯天・天官府・大宰の部屋
秋官長「台輔(タイホ)までどこに?」
靖共「雁(エン)に遊学中の主上に、玉璽(ギョクジ)をいただいてきてくれるそうだ。
一応は王の御璽(ギョジ)がなければならぬ書類があるからな」
秋官長「(笑い)本当に主上は雁におられるのですか?
私は蓬莱(ホウライ)に逃げ帰ったと聞いておりました」
靖共「浩瀚(コウカン)にさらわれたという話もあるそうだが・・・残念だな」
秋官長「・・と申されますと」
靖共「あの赤い髪を見ることは二度と・・・ないような気がする」
秋官長「(微笑)さて・・・春官府(シュウカンフ)の人事を一新する件ですが」
固継・里家・陽子の房室
桂桂「陽子(ヨウシ)!!」
陽子「お帰り、小学はどうだった?」
蘭玉「あなたにお客さんよ」
陽子「え?」
蘭玉「栄可館(エイカカン)という宿で待ってますって」
陽子「宿で?」
蘭玉「(クスクス)男の人だもの」
陽子「・・・もしかして、拓峰(タクホウ)から来たと言ってたか?」
蘭玉「やあね、いい人を忘れたの?僕(シモベ)が来たと言ってもらえればわかるって」
陽子「し・・・」
蘭玉「僕(シモベ)、なんて、すごいわねえ」
陽子「と、とんでもない、そんなんじゃない」
蘭玉「とぼけちゃって。わりと素敵な人じゃない」
陽子「違うって。あいつはもう・・・」
蘭玉「(桂桂に)あいつ、だって(クスクス笑)」
栄可館・一室
陽子「やっぱりお前だったんだな」
景麒「お呼び立てして申し訳ありません」
陽子「とんだお呼び立てだ」
景麒「は?」
陽子「もういい(座って)どうした?わざわざ」
景麒「御璽(ギョジ)をお願いいたします」
陽子「なんだ、そういうことか。言ってくれなきゃ。
王の証となるものを持ち歩いたりしない」
景麒「ではお預けしますので」
陽子「ああ・・・」
景麒「お尋ねの、和州止水(ワシュウシスイ)郷長ですが」
陽子「昇鉱、か」
景麒「悪評の高い人物のようですね。
しかし和州侯がかばうこともあり、罪に問われることはないようです」
陽子「浩瀚(コウカン)の謀反(ムホン)に荷担(カタン)するようなことは・・・・ないか」
景麒「主上、何か一人でなさっておいでなのですか・・・血の、匂いが」
陽子「ああ・・・事故に行き合わせただけだ。昨日のことなのによくわかるな」
景麒「恨みある血ではないようですが、気をつけていただかなくては」
陽子「班渠(ハンキョ)が、浩瀚の一味はまだ私を狙うかもしれないと言っていた・・・
だから気をつけろと言うのか?」
景麒「それだけでは・・・。しかし官の中には、浩瀚を畏(オソ)れるあまり雁(エン)に逃げ出したとか、
もう主上はお帰りにならないなどと言う者も」
陽子「ほう・・・」
景麒「主上・・・よもや・・・」
陽子「(少し怒り気味で)それは確認する必要があることか?」
景麒「(思わず目をそらす)いえ」
陽子「景麒だけは私を信じなくてはいけない」
景麒「申し訳ありません」
陽子「誰が疑わなくても、私だけは私の王たるべき資質を疑っている。
だからたとえ世界中の誰もが疑っても、お前だけは私を信じていなければならない」
景麒「・・・はい・・・」
陽子「私は・・・お前を信じている」
景麒「・・・・・」
陽子「遠甫(エンホ)は、浩瀚と繋がりがあるの者ではないのか」
景麒「・・・それは・・・」
陽子「だとしても、遠甫は素晴らしい方だと思う。だから、私はお前を信じる」
景麒うなずく。
陽子「遠甫に・・・・気になることを聞いた」
景麒「は?」
陽子「同じ姓の者が、二人続いて王に選ばれることはないそうだな」
景麒「・・・(無表情に)そうですか」
陽子「先の塙王(コウオウ)、つまり錯王(サクオウ)の本姓は張(チョウ)。
だから本名が張清(チョウセイ)という楽俊は、次の塙王には決して選ばれない・・・
同じように、予王(ヨオウ)の姓氏は舒覚(ジョカク)。
だから妹の舒栄(ジョエイ)は最初から王ではあり得なかった・・・と」
景麒「はい」
陽子「浩瀚はこのことを知っていたのだろうか?だから偽王(ギオウ)の軍門に降らなかった」
景麒「それは・・わかりかねます」
陽子「いずれにせよ、私は浩瀚から逃げるわけにはいかない」
景麒「はい(うなづく)」
拓峰・清秀の事故現場
鈴「何を言ってるの?昨日、ここに倒れていたじゃない。
それを埋葬したのは誰?」
役人「見たのかね、革午?」
革午「子供が倒れていたのはね。可哀想にやせ細って。
あれは旅の間、満足に食べられなかったんだろう」
鈴「清秀は病気だった。でも死んだのは車に轢き殺されたからよ」
役人「だがそんな車を見た者は誰もいないじゃないか」
鈴「昇鉱の車よ」
役人「郷長は昨日、ずっと郷城におられた。車は使っておられぬ」
鈴「そんな・・・」
役人「・・・やれやれ」
役人たちさる。
鈴「・・・景王に罰してもらうわ」
革午「何を言ってるんだ。王がお前のような者に会ってくださるものか」
鈴「もし、会えるとしたら?」
革午「無理だ」
鈴「もし会えたら、景王は昇鉱を罰してくださるわ!」
鈴の手を引き物影に隠れる。
革午「もう忘れたほうがいい」
鈴「どうして?」
革午「止水郷長の酷吏ぶりは知れ渡っている、
なのに何故罰も受けずにいられると思う?」
鈴「・・・かばう人がいるっていうの?」
革午「ああ・・・それも・・・(声をひそめて)堯天の、ずっとずっと高いところにな」
鈴「・・・・・嘘・・・・」
革午「嘘なもんか。前の王もそうだった。
呀峰さまなんてひどい評判だったのに、王宮に献上を続けたら、この和州を与えられた・・・・
そういうものなんだ」
鈴「・・・・・(絶望で泣く)あたしは・・・なんて・・・愚かなの・・・」
拓峰から固継への橋
浅野「すず・・・おい、鈴」
鈴「アサノ・・・(厳しくなって)どこにいたの、清秀は!!」
浅野「知ってる。死んじまったのか?
・・・一緒に、来いよ。オレ、いい人と知り合ったんだ」
鈴「あたし、堯天に行くの」
浅野「まだ景王に会いたいのか?あのな、景王なんて・・・」
鈴「そうね、笑っちゃうわ・・・景王に会えばなんとかなる、清秀も助かるし、
あたしも・・・そんなふうに思っていたなんて」
浅野「ど、どうしたんだよ、鈴」
鈴「ごめん、アサノ、あたし、あなたとはもう行けない」
浅野「・・・・・・」
鈴「景王は・・・あなたの知り合いかもしれないんでしょ?
だったらあなたはあたしの敵だから」
浅野「どういう意味だよ」
鈴「清秀は・・・殺されたのよ・・・昇鉱っていう獣(ケダモノ)に」
浅野「・・・へぇ・・・」
鈴「でもその昇鉱を放置しているのは、景王。
きっと玉(ギョク)だの絹(キヌ)だの贈られて、いい気になって王宮の中で歌でも歌っているのよ。
だから清秀を殺したのは・・・半分は景王」
浅野「鈴・・・お前・・・」
鈴「あたし・・・許さない・・・昇鉱も・・景王も」
鈴が歩き出す。慌てて後を追う浅野。
固継の街中
鈴を見失う浅野。
浅野「鈴・・・バカだな・・馬鹿だよ・・景王なんか関係ない・・・
清秀はあそこで死ぬと決まっていたんだ・・・」
浅野が街中で景麒を見かける。
浅野「あいつは・・・(搾り出すように)・・・け・・いき・・・」
郷城内・昇鉱の部屋
昇鉱「では、そのケイキ、という男が、お前たちを蓬莱から連れてきたというのだな」
浅野「うん・・・間違いない・・・あいつだ・・・。どうしたらいい?
あいつがいるってことは・・・オレの、ゲームの終わりも近いってこと、それとも?」
昇鉱「ケイキ・・・景麒か・・・何故、北韋に?そうか・・・ふふふふ」
堯天・騎商(キショウ)
商人「鳥には乗れるかい?」
鈴「いいえ、できれば馬がいいんだけど」
商人「じゃあ三騅(サンスイ)だね。青毛の馬で、あまり飛びゃあしないが、
河を越えるぐらいには役に立つ。
・・・それでよければ馴れたのがいる」
鈴「・・・それでいいわ・・・」
堯天・冬器商(トウキショウ)
女「うちの冬器(トウキ)はどんな妖獣にも言うことを聞かせることができるって評判で」
鈴「冬器は、妖魔を狩ることができる呪(ジュ)がかけてあるのよね」
女「ええ、どなたか妖魔狩りを?」
鈴「もう一つ・・・仙も冬器でなければ斬れないって聞いたのだけど」
女「(顔色を変えて)・・・そんなことも聞きますね、でも」
鈴「(さえぎるように)これにします」
女「あの・・滅多な方にはお売りできないことになっていまして」
鈴「これ(旌券を差し出す)・・・采王(サイオウ)の御用の旅の途中なんです。
護身のために一つ」
女「・・・それは・・・」
堯天・宿一室
鈴「・・・ここが堯天よ・・・清秀・・・・あなたを殺した景王は、あそこにいる」
ED(可能であれば入れます)
第32話終わり・・・